今回はマジメな回です。
インターネットで一昨年ぐらいに、普段見てるもののアルゴリズムなのか、とあるレーベルが出てきました。アートワークに惹かれてなんとなく作品を聴いてみると、80sリバイバル的と言うよりももう少し前の…Tangerine DreamとかEno/Cluster的なAmbient/New Age感もあるエレクトロニック・ミュージックだったり、シンセサイザー主体のサントラ風だったりで、ホラー映画やSF的ニュアンスもあるアートワークもあって気になる存在になりました。
よくよく調べてみると、当店でも取り扱いのある映画ソフト作品のアートワークを担当してそうだったり、これは入荷してみよう!と今回入荷に至ったのですが、メールしてると、「日本で取り扱いしてもらえて嬉しい」と。え 初めて?てっきり10年ぐらいやってるレーベルかと思いきやまだ2020年頃に新たに発足したレーベル(後に、過去に別名でカセットをリリースしてたことが分かりました)だったので、Sfi Recordsレーベル主であり、アーティストとしても自ら作品もリリースもしている、Andrew Crawshawさんに色々と聞いてみました。どうぞ。
――今現在 New Frontiers と Somafree Institute として活動されてると思うのですが、このレーベルはどのように始まったのでしょうか?
2019年の後半から2020年にかけて、色んな人たちといくつかの同時に進行してたプロジェクトがレコーディングを終えそうで、それらをどうリリースするか考えてました。それ以前に Broken Press(奥さんと経営してるシルクスクリーンのお店の名前でもある)名義でカセットをリリースしてたのですが、同時期に以前メンバーだったバンドのリリースにも関わっていた為、レーベルを作って、全て自分でリリースして相互プロモーションするのが効率が良くベストかなと考えました。
手始めに自分の関わってる SOMAFREE INSTITUTE, New Frontiers, Meridian Arc, Old Dark House をリリースする予定でした。もうレコーディングも終わってたからです。それらをリリースしていく過程で、プロダクションやディストリビューションその他諸々が分かってきて、このままリリースをし続けていけば少なくともプラマイゼロぐらいには持っていけるなと思ったのです。それが分かれば、とまずは自分のお気に入りのカセットリリースをレコードでリイシューしてみないか?とアーティストに声を掛けたのです。
――Sfi Recordsって名前は、もう見たままSci-Fi Recordsなのかなとは思うんですが、レーベルのテーマをあえて言葉にするとどんな感じでしょうか?
これは実はメイン・プロジェクトでもある SOMAFREE INSTITUTE を略したってだけなんです。本当にバンドや曲名などの名前を考えるのが好きじゃなくて。想いやアイディアを言葉に詰め込んだり、意味なくランダムな言葉を響きだけで決める方法なんかがあると思いますが、一番楽な方法だったかもしれません笑 Sky Records (Brain Recordsを前身とする主に70年代から80年代にかけてCluster、 Eno、 Roedelius、 Michael RotherなどのKrautrock/Ambient系の代表的なリリースをしたドイツのレーベル) と何となく文字並びが近いのも良いなと思いました。やっぱりかなり影響を受けましたからね。
――リリースしているアーティストは全てシアトルのミュージシャンなのでしょうか?どういう繋がりがありますか?
最初はほとんどシアトルのミュージシャンだけで始まりました。ここに住んでますし、先程言ったとおり、元々自分が関わっていたもののリリースから始まってますからね。いくつかリリースをした後、Steve Moore と Majeure (Tony Paterra) に連絡を取りました。彼らはピッツバーグの Zombi というユニットをやっていて、始めて見た2002(3?)年から絶大な影響を受けていて、グループはもちろんソロ活動まで、この数十年ずっと追っかけてます。(※入荷中商品の帯の裏に Zombi のリリース予定を見つけました) この2年半程で範囲が広がって今はテキサス、デトロイト、フィラデルフィア、ロンドン、ニュー・ハンプシャー、マサチューセッツや、今後はスウェーデン、デンマーク、フランスと、国外のアーティストのリリースも予定してます。
――リリースの反応はどんな感じでしょうか?アメリカではどのような方が購入してると思いますか?若くて新しいファンなのか、もしくは70-80年代のシンセサイザー・ミュージックのファンなのかなと思ったのですが。
どういった人たちがこれらのリリースを買ってるのかは分かりませんが、自分のような70-80年代のシンセサイザー・ミュージックのファンかなと思います…分かりません。もちろん特定のアーティストのみのファンもいますが、しかし毎回ほぼ全てのリリースをまとめて購入してくれる人たちがいくつか見られるようになったり、ファンが少しずつ増えてるのを感じます。みんな協力的で興味を持ってくれてるようで嬉しいです。
しかし個人的には、ジャンルやカテゴリーのようなものを考えずに楽しめるアーティスト達をリリースしてるつもりなので、特定のオーディエンスに向けて作品をリリースしていこう、などという努力は全くありません。
――音楽的な影響源はどういったものがありますか?
10代から20代の若い頃はパンクやメタルに夢中でした。と同時にSFやホラー映画にも興味があったので、そこで使われてる音楽にも興味がありました。この過去20年色々聴き漁って色んなものを好きになりました。そのうち Klaus Schulze や Tangerine Dream 、Can をきっかけにクラウトロックや初期シンセサイザー・ミュージックにのめり込んでいき、10年ほど前にドラムからシンセサイザーに方向転換して自分のレコードを作りたいと思うようになりました。その時代のエレクトロニック・ミュージックに影響を受けてるアーティストはものすごくたくさんいると思うのですが、私もまたその一人です。
――リリースしているアーティストはライブ活動をやったりもするのでしょうか?それともホーム・レコーディング・アーティストのような活動の仕方なのでしょうか?
自分のリリースしているアーティストで言えば半分ぐらいがライブをやってるんじゃないでしょうか。自分のプロジェクトでは時々演ってますし、個人的にはライブをするのも見るのも好きです。オーディエンスの前で演奏するというのはアーティストとして作曲やアレンジ、パフォーマンスに関係していくものだと思いますしね。もしホーム・レコーディングのみの活動であれば可能性と選択肢に終わりがありません。キリがなくなって、いつまでも作り終えることができなくなってしまう場合もあります。まあこれは自分の経験上の話ですが。
ライブをやってるかどうかは、自分にとってはリリースしたいかどうかの判断に影響しません。シンプルにその音楽とその人が好きかどうかの一点です。
――あなたの好きな曲で、Sfi Recordsの商品を気に入った人たちへレコメンドをお願いします。
沢山あり過ぎる中から、曲で絞っては難しいのでレコード単位でのリストです。個人的に影響を受けましたし、Sfi Recordsのアーティストも結構これらの方たちとコラボレーションしてるはずです。 Klaus Schulze “Moondawn” – “Irrlicht” – “Angst” – “X” Tangerine Dream “Phaedra” – “Sorcerer Soundtrack” – “Rubycon” – “Thief Soundtrack” Rudiger Lorenz – “Invisible Voices” – “Southland” Steve Roach “Structures From Silence” – “Dreamtime Return” Peter Mergener & Michael Weisser – “Night-Light” – “Beam-Scape” Ash Ra “New Age of Earth” Mark Shreeve “Thoughts of War” Clara Mondshine “Luna Africa” Popol Vuh “Hosianna Mantra” – ” Aguirre” Brian Eno – “Before and After Science” – Ambient #1-4″ Richard Pinhas – “Chronolyse” Heldon – “Stand By” Cluster “Zuckerzeit” – “Soweisoso” Any of the library records released by Coloursound Library
――デザイナー、レーベル・オーナー、ミュージシャンと忙しそうですが、どのようにそれらをこなしていますか?
普段はシルクスクリーンのお店を妻と共同経営しています(コンサートポスターやアート系の印刷など)。週に50-60時間はそうして働いていて、レーベル業はその空き時間の趣味のような感じです。以前は今よりもっとデザイン業に時間を費やしていましたが、この10年ですっかり印刷業に集中しないといけないようになりました。このお店をやってることはレーベルをスタートすることにも影響したことの一つです。自分らの作品のパッケージングをどうすべきなのかのは解っていましたし、それが自ずとレーベルの美学を作っていく何かになると信じていました。
レーベルをやり始めた頃はレイアウトや、どのレコードを出していくのかなどを総指揮していきました。そのアーティストの作品に合うグラフィック・デザイナーを探すのも、私の好きなプロセスの一つです。アートワークの制約など考えながら作業を進めます。
レーベルを始めてからというもの、自分の音楽に時間をあまり割けてないため、もっと時間があればと思います。今現在色んな状態で止まってるやりかけの音源がいくつかあります。
長い言い回しですが、全ては道に沿った自然な進化でした。自分のやって来たクリエイティブな事は、次に取り組む事柄に常に良い影響を与えてきました。ゆっくりと時間をかけてやって来た事、音楽を作ることも、レコードを蒐集することも、プリンターやデザイナー、レーベルをやっていくことも次への論理的なステップのように思えます。
――あなたのデザインについて教えて下さい。
実際はレーベルのデザインに関してはそこまでやってないんです。Meridian Arc のレコードとカセット、 Justin Kleine と一緒に SOMAFREE INSTITUTE と Justin Sweatt のカセットでしたかね。
幸運なことにこれまで沢山の素晴らしいデザイナー達と仕事をすることができました。少し名前を上げると Telepath Graphics, Jordan Warren, Haunt Love, Eric Adrian Lee, Samantha Wendel (Dethscum), Justin Kleine, Chris Jordan, Jon Garaizar (Enchanting Stranger) などです。
――当店でも取り扱ってるVinegar Syndrome や Terrorvision (映画ソフトのレーベル) のカバーデザインもされてたかと思うのですが、どういった映画がお好きですか?
それを手掛けたのは先程挙げた、Haunt Love と Eric Adrian Lee だったと思います。今まで映画会社のデザインは個人的にやっておりません。映画は好きですけどね。ホラーとSFには目がないんです。
――デザインもすごく良いと思いますが、どのようなものからインスパイアを受けていますか?
ありがとうございます。難しいですね、よく古いレコードやサイエンス・マガジン、70-80年代のモノが多いですね。どのデザインもその裏にはそれぞれ別のインスピレーションがあります。自分自身ではまあまあなデザイナーだと思っています。頼まれればそれなりに仕事はこなせるとは思いますが、他に素晴らしいアーティストやデザイナーをこれまで見てきたので、自分がわざわざ出る幕はないなと思ってしまうのです。本当に才能ある人はたくさんいますからね。
――2023年にフィジカル・フォーマットでリリースしていくことについてどう思いますか?
金銭面で言えば必ずしも賢いやり方ではないかもしれませんが、それでもカセットやレコードは好きです。実際に触れてレコードをスリーブから取り出して、ターンテーブルの上に乗せる、そしてその音楽を聴きながらジャケットのアートワークを眺めたり。
カセットにはノスタルジアな面で、昨今支持されてるのも少なからずあるかもしれません。でも実はこの手の音楽には良いフォーマットであるとも思ってます。レコードは収録時間の制限もあり、ひっくり返す必要もあります。時には60-80分の音楽もあるので、そんな時カセットは良い選択肢と言えるでしょう。そしてレコードに比べて少しお手軽な面があると思います。レコードは作るのにコストがかかりますし、値段もその分上げないといけなくなってきます。カセットは手軽で手に取りやすく安い分、よく知らないアーティストでも試しに買ってみるということもできるでしょう。
――今までリリースしたアーティストについてコメントをください。Blutbraüerのコンセプトも好きなのでそれについてもよかったら。
Blutbraüer は Corey J. Brewer と Erik Blood がコラボレートしてるプロジェクトです。彼らは最初セルフ・リリースでアンディ・ウォーホルの未発表作映画のサウンドトラックと謳って、クレジット無しで音源を発表してたんです。しばらくそのことはそのままにしてたんですが、レコード・リリースの時には“アンディ・ウォーホル“云々はやはりそのままにはできませんよね。その辺りからこのプロジェクトが誰の手によるものかが知られるようになってきたんです。彼らは来年頭頃に次のリリースを予定してます。最初のレコードより更にすごいですよ。楽しみにしてます。
Corey J. Brewer は 数ヶ月前に“Velvet Vampire” をリリースしてます。Blutbraüer にとても似たフィーリングの音源です。Old Dark House のレコードを一緒に作ったこともあります。他のプロジェクトとは少し違う感触ですね。もっとホラー映画のサウンドトラック/80sのシンセ音楽にボーカルがある感じです。
先程言ったように、多くのプロジェクトは自分が関わっていたグループです。Meridian Arc は私のソロ・プロジェクト、この10年ほどでサウンドトラック風な感じから、もっとアンビエント/コズミック/ベルリン・スクール風に変わってます。New Frontiers は Justin Kleine と一緒にやっているもっとニューエイジ・サウンドなプロジェクト。(of) Inner Dimensions を数年前にリリースしました。その時期ヨガもやっていて、もっとゆったりとして落ち着いたリラックスできるものを作ろうとしてました。ついこの前最初のライブをやったところでした。来年はもう少しライブをやって新しいレコードもリリースできるといいなと思います。
Justin と私に、ドラムの Tim Call を加えたのが SOMAFREE INSTITUTE です。この4-5年はこのユニットをメインに活動してます。これまでに2枚のEPをリリースしていて、LPの録音を終えたところで、来年頭頃にリリース予定です。SOMAFREE INSTITUTE は70sクラウトロックやSF/ホラー映画のサウンドトラック影響下の、あくまでトラディッショナルなロックバンド的なアプローチでライブをしています。
自分の関わってないものは個人的に好きなアーティスト達ばかりで、直接コンタクトを取って、音源のリリースに興味があるかどうかを訊いてみます。幸運なことに、個人的に知り合いではなかった好きだったアーティストが連絡してきてくれるパターンもありました。
Steve Moore と Majeure は10年程前にリリースしたカセット作のリイシューです。Positronic Neural Pathways と Union of Worlds で、彼らがリリースしたレコードの中でも特にお気に入りの作品です。
と Paul Riedl (of Blood Incantation) Justin Sweatt の作品はレーベルの中でもニューエイジ/アンビエント・サイドの音楽です。どちらも特有のヴァイブとフィーリングがあり、アンビエント・ミュージックの美しさとシンプルさをものにしてます。あなたがこれらの音楽をかけると、今あなたがやっていることのバックグラウンドにまどろみ溶け込んでいくでしょう。でも注意深く耳を傾けると、その細部のディテールにいくらでも気づくことができます。
Phaseshifter もまた、最近カセットをリリースした新しいプロジェクトで同様のフィーリングがあります。
Timothy Fife と Jake Schrock は年末にリリース予定があります。どちらもこの過去10年で私のお気に入りのレコードを出していて、そのレコーディングではとてもクラシックでヴィンテージなサウンドを得ることに成功しています。Fifeのサウンドはまるでタンジェリン・ドリームの未発表作のようで、アルペジオとシーケンスで協調されたサウンドコラージュが広がります。Jake Schrock の作品はとてもメロディックでドリーミィなフィーリングの中にダークなトーンが潜んでる感じです。
カセットのリイシューとレコードのリリース予定のシンセとドラムのデュオ Delta IV、彼らの音楽はシネマティックで壮大です。どちらも未知のSF映画のサウンドトラックのような感じです。そして今後予定の、初めてリリースする MCS (Michael C. Sharp of Uniform / Sungod / Hatred Surge), Norm Chambers, (Noise-A-Tronでも知られる) Pale Endless, Cremator, Ogre, Gel-Sol, Ex-Nihilo と、他にもまだ告知できないたくさんのリリースを控えてます。
こんな感じでした。突然のオファーにしっかりと答えてくれたAndrewさん、ありがとうございました。
人によってはなかなか取っつきにくい印象もある音楽ですが、個人的には今回更に理解を深めることができました。いかがでしたでしょうか?
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